『ループ7回目の悪役令嬢は、元敵国で自由気ままな花嫁生活を満喫する』の原作者 雨川透子先生書き下ろしショートストーリーを公開いたしました!
ぜひ、ご一読ください!!
「アルノルト殿下の黒髪は、お花を飾るとよく映えますね!」
「…………」
皇城の片隅にある庭園のベンチで、リーシェはきらきらと目を輝かせていた。隣に腰を下ろしたアルノルトが、こちらを無言で見下ろす。
「先ほどからお前は何をしている?」
「公務漬けのアルノルト殿下の健康管理で、お庭に連れ出す任務を遂行中です」
「そういう話をしているのではない」
アルノルトの髪のあちこちには、髪飾りのように小さな花がつけられている。
「……一体なぜ、俺の髪に花を飾りつけているのかと聞いているんだ」
「ふふっ!」
春の陽気を感じつつ、リーシェはアルノルトに告げる。
「この国はたくさんの花が咲くのだとか。皇太子妃になる以上、嫁ぎ先の名産はめいっぱい満喫しなくては」
「これのどこが満喫に繋がっている?」
アルノルトの問い掛けに、リーシェは考える。
(悪戯のつもりでやっていることは、きっと気付いていらっしゃるわよね。けれど礼拝堂のキスの一件だって、まだ反撃できていないし……)
あのときの仕返しですと言うのはやめて、ひとつ閃いた。
「だって、特別な遊びではありませんか?」
アルノルトの耳の横に、一番大きな珊瑚色の花を飾って笑う。
「――旦那さまの髪にお花を飾る遊びは、旦那さまがいないと出来ませんので!」
「…………」
その瞬間、アルノルトは目を伏せて溜め息をついた。
「なら」
彼の大きな手が、リーシェの髪に触れる。撫でるように触れられて驚くと、アルノルトは当然のように言ってのけるのだ。
「妻の髪についた花びらを取るのは、遊びというより夫の務めか?」
「!!」
驚いて自分の髪を押さえると、アルノルトは笑うように目を眇めた。その上でリーシェの鼻の頭に、取ってくれた花びらをそっと乗せる。
「むむ……」
なんとなく負けた気になりつつ、リーシェは花びらを手に取って、大事に指で撫でるのだった。
©雨川透子・オーバーラップ/ループ7回目製作委員会